十五のこころ
11月16日午後4時40分。第31期西部名人戦三番勝負第3局。三森和明名人が投了の声を告げると、熱戦は幕を閉じた。かすかに聞き取れたのが、「相手の方が上だった」という一言。しばらくして「お疲れっ」と声をかけると、「はい」とはっきりとした声が返ってきた。
この日は三番勝負の始まる前、開会式の挨拶で、三森名人は「これまでの中で、この1ヶ月ほど将棋を勉強した期間はない。」と防衛に向けた固い決意を語った。
今、傍(かたわ)らで、新聞社のインタビューを受ける本池新名人。それは去年の自分の姿であった。頭の中には数々の盤面が駆け巡っていることだろう。名人という称号を失った三森君は会場の出口の暗がりに吸い込まれるようにして去っていった。
勝利者の本池達也君。学生服の黒があざやかで、しばらく新聞社の取材が続く。言葉の区切り区切りに大きく息を吸い直す。激しい戦いの後の疲れより、興奮の方が勝(まさ)っているようだ。
遠くから笑顔で達也君を見守るお父さん。「よかったですね。」と周りから声をかけられ、それが2,3回続くと、目のあたりがうっすらと滲(にじ)んできた。数々の思い出が去来していることでしょう。初めて大会(ジュニアクラス)で優勝したのが、3年前の夏だから超特急でここまで駆け上がってきた。
おめでとう!本池君。
啄木の歌を思い出しました。頂点を争う両君には、将来に向けて大きな希望と可能性があります。
不来方(こずかた)の お城の草に 寝転(ねころ)びて
空にすわれし 十五のこころ
第2局。三森名人は耳栓をしてこの対局にのぞんだ。
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右上の写真は日本海新聞11月17日21面。