旅の友

 会場の広い和室で、少し言葉を交わすと、山田一弘さん(倉吉市)の先手で対局が始まった。後手の松井章宏さん(米子市)は、米子の地に赴任して7年が過ぎた。米子の土地柄になじみ、西部支部道場で力をつけてきた実力者である。
 この日の県アマ採譜会、「米子にぜひ一勝を」という誘いに気持ちよく返事していただき、早朝米子を出発した。国道を東に走り、左に日本海、右手には山陰線を行く車両が見える。
 過去に転勤で米子に在住し、将棋を通じて友人を作った人が多い。そして、米子を思い出多き町として去っていく。
 右手を行く各駅停車の車両。単調な海岸線に沿って走る長旅。米子の地を離れることのない者にとっては、この町での生活は終わりのない旅である。そこに乗り合わせて来た初めて会う乗客と将棋を指し、話に興じては、やがて友人となる。一駅、二駅過ぎ、気がつくと友人は去っていった。ぽっかり空いた座席。長旅の乗客は、友人の思い出話に時を忘れる。