大田学さんのこと(1)

karasunogyozui2009-04-22

 96年、米子将棋まつりに大田学さん(1914−2007)を招待する企画が持ち上がり、開催にあたり、この年の4月、大田さんを大阪に訪ねた。
 96年5月の山陰中央新報観戦記で、大田さんのことを山陰の人に知ってもらいたいと思って書いたもので、棋譜の解説はありません。


平成8年4月14日
大阪通天閣将棋センター
▲先手 平井正人(米子市、45歳)写真右
△後手 大田学 (大阪市、81歳)写真左


第1譜 真剣一代

 4月14日、快晴の日、大阪通天閣二階の将棋センターに大田学翁を訪ねた。薄茶色のコートを羽織った翁は、愛用の駒を取り出すと、「山陰中央新報に載るんですね。あなたが平井さん、ホウ強いんでしょ。負けるかもしれないな。」故郷倉吉の訛(なま)りは消えている。
 兵役を終え帰郷した大田さんは、鳥取市吉方の道場で師匠の宮脇敏行氏のもと急速に力をつけ、数年後には県内無敵、強豪を求めて全国各地へ真剣師の放浪の旅に出た。現在八十一歳。第1期朝日アマ名人が表舞台の肩書きである。
 昨年、大田さんの盤寿の祝いが東京で行われ、多くの人々から祝福を受けた。出席者全員に贈られた彫り駒には、真剣一代の四文字があった。


▲26歩△84歩▲25歩△85歩▲78金△32金▲24歩△同歩▲同飛△14歩▲26飛△34歩▲96歩△94歩▲76歩△23歩▲38銀△86歩▲同歩△同飛▲77桂△62銀▲16歩△74歩(A図)指手通算24手
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第2譜 たばこ


 乱戦模様の序盤。大田さんはよく煙草(たばこ)を吸う。煙草を掌(てのひら)の中に弄(もてあそ)ぶようにしては口元に運び、白い煙を吐(は)く。青のつなぎ服を着た四十代の男が大田さんに近づくと、盤の横に乱雑に置かれた煙草の箱を見ている。セブンスターとキャスター。男は大田―平井戦には関心がなさそうである。
 いきなり「大田はん、タバコは何吸うてんの?」「煙さえ出りゃええ。毎日違うの吸うてるで。ハハハ。」
 しばらくすると、男はどこかに立ち去り、静けさが戻った。
 窓の外には春の町並みが広がっている。そして幾筋もの道がこの通天閣を中心点として集まっている。不思議な町だ。その中心点とは山頂なのか、谷底の深みの一点なのか・・・
 青のつなぎ服が帰ってきた。「大田はん、これ吸うてや」キャスターがワンカートン、丁寧にサービス品のライターが一個。「おおきに。貰(もら)いもんばっかしや。ハハハ」窓越しのやわらかな春の光を受けて、大田さんがまた笑った。


▲36飛△82飛▲34飛△95歩▲85歩△96歩▲94歩△33金▲74飛△73銀▲75飛△94香▲87金(B図)指手通算37手




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