散歩道

 一週間ほど前のことであるが、早朝、住宅街にある終わりかけの百日紅を見ながら歩いていると、見慣れない老夫婦が散歩している。夏の暑さが終わり、過ごしやすくなったことから、久しぶりに外出されたのであろう。色白の二人は、仲良く手を添えながら歩いている。ほとんど歩が進まないその様子は静止画像を見ているようでもあった。相当のご高齢で90歳は越しているであろう。
 それから、次の辻を抜けたところで、二組目の老夫婦が散歩していた。やはり初めて見る夫婦で80歳前後である。夫が前屈みに自転車を引き、その後方に妻が荷台の端を右手で押さえて、上半身を後ろに反りながら歩いている。そうすることでバランスを取っているのであろうか。頭髪は白く櫛を軽くあてた程度で化粧はしてないが、深紅色の口紅だけが何層にも塗られているようである。ひょっとして病の床から起きて、こうして歩いておられるのであろうか。遠目にその表情は読み取れないが、懸命に歩を進めている。自転車をはさんで歩く老夫婦の姿はモノクロの映像を見ているような静かな世界で、そして老いた妻の口紅の色が鮮明に記憶に残っている。
 あれからも百日紅の通りを歩くのだが、二組の老夫婦には会っていない。



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