罪悪感と恐怖心

 相穴熊の将棋となった。穴熊は大駒を切る派手な攻めの豪快なイメージが強いが、相穴熊はお互いの陣形にあまり差がないため、むしろ少しづつポイントを稼いでいく細かい将棋になることが多い。
 また、居飛車は2五歩と伸ばしている分、主導権を握りやすいという見解は昔から言われている。そのせいだろうか、後手の池本さんは「自分からは動きにくい」とい心の中の苦しさを、言葉の代わりに指し手で表現している。
 将棋を知らない人に、将棋にも引き分けがあると言うと驚かれる。「千日手」と「持将棋」だ。中でも「千日手」は、中途半端なところで無勝負となるため、嫌われる傾向が強い。もし指し直しになれば、次は後手が先手番になるため、後手番なら当然の戦略であると割り切っているプロもいるし、そんなことは性に合わないというプロもいる。また、実際に自分の対局でしてみると分かるが、何か悪いことをしているような罪悪感や、同じ手を繰り返しているうちに相手の陣形ばかりどんどん良くなっていくという恐怖心など、心にいろいろわいて来る。池本さんの場合、どうだったのだろうか。
  64手目、ついに駒がぶつかった。
(C図)▲2四歩△同歩▲5五歩△5六歩▲5四歩△同飛▲2四角△3三桂▲5五歩△同銀▲同銀△同飛▲4六角△7三角▲2二飛成△5七歩成▲5五角△同角▲5二飛△3七角成▲7二飛成△同金▲同龍△7一銀打▲6一銀(D図)通算指手89手