左から俳優の中村賀葎雄さんと大田さん


第6譜 旅の果て


平成8年4月14日
大阪通天閣将棋センター


平井正人(米子市、45歳)
大田学 (大阪市、81歳)


 大田さんは、亡き友・加賀敬治氏と全国各地へ旅打ちに出た。旅行ではない!
 行く先々で勝負をし、負けたら一文なし。勝てば次の土地に向かう。「何せ相手がいないと宿代、飯代が出ない。東北仙台では、めぼしい相手が皆勤めに出ており、とうとうお客さん(相手)が見つからず、何日も水を飲んでいましたよ。」
 津軽三味線高橋竹山は自伝の中で、「あわれなもんだったナ、あの頃は。天気好(よ)いば村には誰も人いないし、海さ舟出して皆が漁しているのを見ながら、ただブラブラ道を歩いていたんだ。」
 その話をすると「同じですよ、全く」と大田さん。
 将棋を愛する作家の団鬼六氏(横浜市)は、「彼にとって、将棋は哲学であり、人生であり、宗教である。年に一回、家(うち)に来よる。真剣で指す。ところがあの年寄り、強いさかい、私が負ける。また坊主が托鉢(たくはつ)に来よるようなもんや。だから、私もキチンともてなす。嫌いな坊主やったら、すぐ追い返すんやけどなあ、ワッハハハ。」


(E図から)△84金▲44竜△85桂▲43桂△62玉▲31桂成△36歩▲26銀△43銀▲35竜△77角成▲93銀△83歩▲84銀成△同歩▲83金△54歩(F図)指手通算88手