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第5譜 若山富三郎
平成8年4月14日
大阪通天閣将棋センター
映画「王手」の撮影は、5年前、通天閣で夜を徹して行われた。明治生まれの真剣師を若山富三郎が、現代の真剣師を赤井英和が演じた。
駒を指す手つきというのは結構難しい。若山さんはあまりうまくなかった。スタッフはやきもきするが、大ベテランなので注文はつけられない。
「若山はん、こう指すんです。」傍らで見ていた大田さんのきっぱりとした物言いに、若山さんはまるで新人俳優のように何度も頭を下げ、指導を受けたという。その二人の姿にスタッフが感銘を受けたという話を聞いたことがある。
その話を通天閣将棋センターの手合係の方に確かめると、「ええ、撮影が終わってから、若山さんは大田さんと温泉へ行く約束をして、たいそう楽しみにしておられた。それが間もなくして亡くなられましてね・・・・」
短い聞き書きであるが、別の道で辛酸をなめてきた二人の人生の奥行きが感じられる。
対局後、大田さんは小さな声で、「若山さんが、生きておられれば・・・」。後の言葉は聞き取れなかった。
(D図から)▲55銀△86角▲48玉△34金▲44銀△37歩成▲同銀△44金▲36竜△35歩▲46竜(E図)指手通算71手