左から大田さん、平井氏


第2譜 たばこ

平成8年4月14日
大阪通天閣将棋センター

▲先手 平井正人(米子市、45歳)
△後手 大田学 (大阪市、81歳)


 乱戦模様の序盤。大田さんはよく煙草(たばこ)を吸う。煙草を掌(てのひら)の中に弄(もてあそ)ぶようにしては口元に運び、白い煙を吐(は)く。青のつなぎ服を着た四十代の男が大田さんに近づくと、盤の横に乱雑に置かれた煙草の箱を見ている。セブンスターとキャスター。男は大田―平井戦には関心がなさそうである。
 いきなり「大田はん、タバコは何吸うてんの?」「煙さえ出りゃええ。毎日違うの吸うてるで。ハハハ。」
 しばらくすると、男はどこかに立ち去り、静けさが戻った。
 窓の外には春の町並みが広がっている。そして幾筋もの道がこの通天閣を中心点として集まっている。不思議な町だ。その中心点とは山頂なのか、谷底の深みの一点なのか・・・
 青のつなぎ服が帰ってきた。「大田はん、これ吸うてや」キャスターがワンカートン、丁寧にサービス品のライターが一個。「おおきに。貰(もら)いもんばっかしや。ハハハ」窓越しのやわらかな春の光を受けて、大田さんがまた笑った。


(A図から)▲36飛△82飛▲34飛△95歩▲85歩△96歩▲94歩△33金▲74飛△73銀▲75飛△94香▲87金(B図)指手通算37手